輸血後GVHDについて

添付文書作成の背景
血液センターでは、医療の担い手として、有効性及び危険性についての正確な情報を医療機関に提供するという主旨で、平成7年7月1日から、添付文書を改訂し、全ての血液製剤に添付されることになりました。
これは、医療に求められる安全性の高まりが社会的に一段と要求される時代になり、輸血用血液製剤も一般医薬品と同様に厳しい規制が課せられることになりました。輸血用血液製剤の供給に製薬業と同等の規制が課せられるようになり、GMP遵守、製造物責任法への対応、有効性、危険性についての情報提供の義務を負うことになりました。また、臨床側には、患者へのインフォームドコンセントに基づく医療が求められることになります。
こういった背景のなかで、特に、今回の解説では、血液製剤の「警告」表示について説明させていただきます。

警告表示
副作用の中で、特に重篤で致死的な副作用である輸血後GVHDを「警告」欄に記載いたしました。輸血後GVHDは、「移植片対宿主病」の略で、供血者由来のリンパ球が患者体内で排除されることなく、逆に増加し、患者体組織を攻撃する病態です。
輸血後GVHDについては、中央血液センター医薬情報部への報告では、死亡例が年間10例程度発症しているので、「警告」に該当すると判断したものです。但し、警告表示した輸血用血液製剤の種類は、新鮮凍結血漿及び解凍赤血球製剤を除く全ての製剤が対象となります。

GVHD発生の機序
GVHDの発生機序について簡単に説明いたします。免疫不全患者への輸血、供血者と患者の組織適合性抗原の類似した輸血の組み合わせで発症しやすいといわれています。
つまり、AAという遺伝形質を有するマウスの血液を、ABというマウスへいれた場合、ABの方はその血液を異物と認識することができず、したがって拒絶されません。一方、輸血されたAAのリンパ球は、ABマウスの体組織を異物と認識し、攻撃を開始します。この病態が輸血後GVHDです。このような供血者と患者間の輸血の組み合わせ頻度は、約300分の1から874分の1と計算されています。また、親子間の輸血では、約50分の1と更に高い確率になります。

GVHDの症状
輸血後GVHDの臨床症状は、典型的な例で示すと、輸血後1〜2週間程度経過し、38℃を超える発熱、紅斑が現れ、続いて肝障害、下痢などが現れ、骨髄無形成・顆粒球を中心とする汎血球減少症となり、2〜4週間後に、多臓器障害や感染症を併発して死亡します。
輸血後GVHDの治療としては、サイクロスポリンA、抗CD3抗体の投与で回復した症の報告例もありますが、確実な治療法はなく、死亡率は95%以上とされています。白血病の化学療法に準じた無菌操作等の支持療法が重要です。

輸血後GVHDの発症数
発症数は、胸部外科学会と輸血学会の調査では、659例の開心術患者に1例、1981年から1986年の日本赤十字社のアンケート調査では171例、血液センター医薬情報部への報告からは、1993年9例、1994年10例となっています。

輸血後GVHD確定例の背景因子
輸血後GVHD確定例の背景因子として、男性に多いこと、高齢者に多い、初回輸血患者に多いこと。また、従来より指摘されていた胸部外科開心術症例が多い他、特に胆癌患者に多く認められました。

輸血後GVHDの予防
現在までのところ確実な治療法なく、予防が最善の策といわれています。予防策としては、輸血の適応を厳密にし、不必要な輸血を行わない。親子間の輸血では、GVHDの発生頻度が50分の1と高率となることからも、近親者間の輸血は避ける。また、予定された手術では自己血輸血を実施する。放射線照射により、リンパ球を不活化した血液を使用するなどがあります。

輸血によるGVHD予防のための血液に対するガイドライン
日本輸血学会から、平成7年5月に、「輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドライン」が提示されています。
これまでの、危険因子として考えられていた、従来からの免疫機能の低下以外に、外科手術、特に、心臓血管外科例、胆癌症例など、HLAの適合性の高い血縁者間の輸血、新鮮な血液の使用や高齢などが考えられており、照射を必要とする患者も、胎児、未熟児等が追加されています。照射線量としては、最低15Gyを必要とし、50Gyを超えない範囲とされています。この線量の範囲内では、赤血球、血小板、顆粒球の寿命や機能に影響はないと考えられています。

上清カリウム濃度の経時的変化
放射線を照射すると、赤血球を含む製剤では、上清カリウム濃度とヘモグロビン濃度が上昇するので、高カリウム血症の合併症を併発しやすい患者、小児、腎障害患者、大量輸血患者では、速やかに使用することが重要であす。
その他の患者では、担当医の了解のもとで、照射済み血液を転用してもよいとされるので、適切な保管管理が要求されます。

おわりに
添付文書に記載された輸血後GVHDと警告表示について説明いたしました。
尚、厚生省からの緊急安全性情報にもあるように、平成8年5月1日より、GVHDの予防のため、医師が照射必要と認めた場合は、保険が適用されます。
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